論文レビューメモ

オープンアクセスの論文を一つのテーマに沿って3本ピックアップし、まとめています。2024年は生成AIを論文の執筆や解釈、まとめにどう使えるかを試していきます。

発酵野菜と健康効果について

発酵食品は健康にいいというけども、最近の論文ではどこまでわかっているのかしら、という視点で選んだ論文はこの3本。

1. Cai Y et al., Regular consumption of pickled vegetables and fermented bean curd reduces the risk of diabetes: a prospective cohort study. Front Public Health. 2023 Apr 27;11:1155989. doi: 10.3389/fpubh.2023.1155989.  

www.frontiersin.org

2. Galena AE et al., The effects of fermented vegetable consumption on the composition of the intestinal microbiota and levels of inflammatory markers in women: A pilot and feasibility study. PLoS One. 2022 Oct 6;17(10):e0275275. doi: 10.1371/journal.pone.0275275.

journals.plos.org

3. Breza-Boruta B. et al., Natural Bioactive Compounds in Organic and Conventional Fermented Food. Molecules. 2022 Jun 24;27(13):4084. doi: 10.3390/molecules27134084.

www.mdpi.com

ChatGPT(無料版 May24バージョン)による論文3つのアブストラクトまとめはこちら

中国で行われた研究では、発酵野菜や発酵豆腐の定期的な摂取が糖尿病のリスクを低減することが示されました。別の研究では、女性を対象にした実験では、発酵野菜の摂取が腸内細菌の組成に有益な変化をもたらす可能性が示唆されました。また、有機栽培の発酵野菜は一般的な栽培方法に比べて乳酸菌の数やビタミンCの含有量が高く、有害物質が除去されているため、健康に良いとされています。

これらの研究結果から、発酵野菜は健康効果があり、糖尿病リスクを低減することが示されています。また、発酵野菜の摂取は腸内細菌の組成にも良い変化をもたらす可能性があります。さらに、有機栽培の発酵野菜は有害物質が除去されており、乳酸菌や栄養素の含有量が高いことがわかっています。これらの研究結果から、発酵野菜の定期的な摂取は健康促進に役立つ可能性があります。

(ChatGPTによるまとめはちょっと内容に誤解があるかも)

発酵食品と健康効果については注目度が高く、日本でも発酵は「腸活」や「健康」といったキーワードと結びつけられることが多い。世界でも同じ考え方で発酵を捉えているのかなと思いきや、欧米では比較的マイナーな研究分野。アジア圏で発酵研究がひときわ盛んで、発酵食品の喫食効果についてのコホート研究が熱心に行われている(文献2)。

発酵食品と健康効果についての統一見解は2023年現在でも示されておらず、食品が持つ「健康効果」を示す困難さは世界共通で抱える課題と言えそう。一つには、人の食生活はあまりに多様な上、食品がもたらす健康効果が微弱であることから、ノイズにかき消されてしまって観察しにくいことが考えられる。これに加えて、発酵食品の品質がまちまちであって、薬のように単一の物質として定義できるものではないことも大きいだろう。

文献1は大規模なコホート研究の結果で、発酵野菜・発酵豆腐による糖尿病の予防効果を評価したもの。統計処理を駆使して発酵野菜・発酵豆腐の喫食効果だけを抽出すると、糖尿病の発症リスクを最大1/2に減らすことができるとの結果になった。しかし、実際には喫煙や飲酒のような影響の大きい因子が存在するので、現実的な結論としては、発酵野菜・発酵豆腐を食べるくらいでは予防効果にはならない。

文献2ではアメリフロリダ州在住の女性を対象としたザワークラウト・きゅうりのピクルスの喫食効果について、腸内環境と炎症性バイオマーカーの値で評価したもの。これについても、過去にキムチの喫食効果として示された「発酵野菜によって腸内のFirmicutes門が増加する」という結果が得られていない。全体的に大きな変動が見られない印象。発酵野菜の種類が違えば効果が違うのか、発酵野菜以外の食生活が原因か、様々な要因が絡むので、この論文でも食事の人への効果を示すのは簡単ではないことがあらためて浮き彫りに。

文献3では、発酵野菜の質的な違いを示していて、原料野菜が有機野菜かそうでないか、原料となる牛乳を得た牛を有機農法の餌で育てたかそうでないかの比較をしたもの。そもそも有機野菜は栄養価が高い、という認識があるが、科学的にそれは証明されていない。比較したのは発酵食品中のベータカロテン・ビタミンC、カルシウム含有量。有機原料の発酵食品が常に栄養価として優れている、とは言い切れず、発酵野菜中のビタミンCとヨーグルト中のカルシウムについては有機原料の方が高くそれ以外は差がないかむしろ少ない、という結果。有機原料を発酵させるとより多くの乳酸菌が生育するが乳酸菌の質的な違いはなさそう。

これらの3つの文献を見ただけでも発酵食品の質的なばらつきとそれを喫食する人の食生活のばらつき、健康により強い影響を与えるそのほかの因子の存在等が発酵食品の健康効果を示すことがいかに難しくさせているかがわかる。食と健康効果は様々な要因が関係するので、これを食べれば健康になれます、とはいかない。ある食品だけを食べて痩せました、というのがうまくいかないのと同じことなのかもしれない。

 

以下はまとめを作るためのメモ

1. 糖尿病患者は世界で5億3700万人。糖尿病は様々な疾患と関連している。

発酵野菜の栄養学的なメリットは「believed」という表現。微生物の複雑な発酵作用によって多様な栄養素が作られたり腸内細菌の組成に影響を与える。実際にコホート研究を行なって調べた論文。最終的には6640人分の結果が得られた。発酵野菜・発酵豆腐の摂取量はアンケートベース。平均で6.5年間追跡。

Odds Ratio: 対照と比べてある疾患になる確率の比のこと。Odds ratioが0.5であれば、比較対照と比べて疾患になりやすさが0.5倍である、ということ。

あくまで現象を追いかけただけだけど、6600人を平均で6.5年追いかけたところはすごい。

発酵野菜や発酵豆腐を摂取すると糖尿病のリスクが下げられる、という統計上の結果は出ているけれども、喫煙や飲酒の悪影響が大きいので、発酵野菜や発酵豆腐を食べていればOK、ということではなさそう。

腸内細菌叢の変化はインスリン抵抗性が高くなることによる糖尿病リスクを増加させることが知られている。発酵食品はプロバイオティクス効果が期待できるので、糖尿病のリスクを下げることが期待できる。腸内細菌叢とインスリン抵抗性については論文いくつが出ている。

 

2. 女性を対象とした発酵食品の摂取と腸内環境・炎症性マーカーの数値の変化を調べたもの。100 gの発酵野菜を毎日食べる、という条件設定が一般の人にとって可能かどうか、ということと、それによって現れる現象を調べることが目的。グループAが発酵野菜(キャベツときゅうり)を食べる。グループBが漬け野菜(キャベツときゅうり)を食べる。グループCが何もしない、で分けて考えている。女性に限定した理由は述べられていないが、男性がそもそも被験者にいなかったのか、意図的に外したのかはわからない。被験者は31人のフロリダに住んでいる人。

8〜9割の人が発酵野菜・漬け野菜を6週間食べ続けることを完遂したけど、食べ続けるのは難しいと感じていた。発酵野菜・漬け野菜をたべると膨満感を半分くらいの人が感じていた。便の状態はよかった。でもこれは発酵野菜や漬け野菜を食べていなくても状態は良かった。

血中の炎症性マーカーの値にグループ間で差がなく、理由としてサンプルサイズをあげているけれども、サンプルサイズを大きくすれば統計的な有意な差が出てくるだろう、という結論。これは統計理論的に合ってるのか?有意差を出すためにサンプルサイズを増やす、というのは結構やられていることなんだろうけど、この辺り、学術界ではどういう見解になっているんだろうか。

腸内細菌叢についてもRuminococcus torqueのabundanceに統計的な差があったが、知見が少なくなかなか解釈に苦戦した様子。データを見る限りそこまで大きく変動しているような印象はなし。結果としてはプロボテラがグループAで多いのが印象的。

全体としてこれまでの発酵野菜と腸内細菌に関する知見・ロジックに合わない現象、例えば発酵野菜を食べているグループでFirmicutesのabundanceが減少する、などが確認されているので、ヒト試験というのはそんなに簡単で直線的な結果にはならないことが再び示された、という感じ。食生活以外の影響が大きかったりするよね。

3. 野菜発酵の原料に着目した報告。ヨーロッパを中心に有機野菜の需要が高まっていることが背景にあるか。

有機野菜は一般的にビタミンの含有量が高いと言われているが、反対の結果を報告する例も多い。化学肥料や除草剤等を使って育てたものの方が栄養価が高いという報告さえある。ビタミン・ミネラルの含有量に差はない、という報告もあり、有機野菜=栄養価が高いとは必ずしも言い切れない。

有機栽培の原料と従来型の近代農法による原料を発酵させて得られる発酵食品のビタミンCとベータカロテン(ビタミンA)、カルシウム含有量を比較。原料そのものに差はなくとも発酵食品とした時に差が生まれるのではないか、という視点。

有機野菜ジュースや有機ヨーグルト(牛の餌が有機農法で育てたもの)の方がそうでないものよりも乳酸菌の生菌数が多い傾向にあった。しかし何か変わるかね。微量栄養素による効果か?ビタミンCは発酵野菜では有機野菜のほうが高いがジュースにすると有意な差はなし。ビートでは野菜を発酵させたものは有機法と従来法で差はないが、ビートジュースにするとベータカロテンは有機農法は従来農法の1/5。

発酵食品から単離した乳酸菌のうち、発酵野菜由来と発酵乳由来でバクテリオシンの抗菌スペクトルが異なっていた。でも有機原料か従来原料かで違いはそこまで大きくない。有機原料から単離してきた乳酸菌の方が抗菌力が強いケースもあればその逆もある。そもそも原料が有機かそうでないかで生育してくる乳酸菌の能力が異なるなんてちょっとおかしいよな、と思う。栄養価の違いについてはクリアな結果は示せず。ただし発酵時に働く乳酸菌の違いについては、野菜由来と乳由来での違いは示すことができた。