論文レビューメモ

オープンアクセスの論文を一つのテーマに沿って3本ピックアップし、まとめています。2024年は生成AIを論文の執筆や解釈、まとめにどう使えるかを試していきます。

未同定成分の質量分析を用いた同定方法

代謝産物の成分分析をLCとかGCとかでやると、よくわからないピークって結構出てくる。大抵の場合、やろうとしている研究テーマで分析対象とする代謝産物はすでに決まっているから、よくわからないピークは無視するけど、ひょっとしてこの中に何か生理学的な理解をするために重要な代謝産物があるかもしれないんだよなーとは常々思う。でも同定するための苦労と新たな発見のインパクトを天秤にかけていつもそのままにしちゃうんだよな。

分析対象を限定しないで網羅的な分析を行うアンターゲットLCMS、みたいなことも言われるんだけど、それこそ確度が低いデータがゴロゴロ出てくるなんてこともあるだろうし、うまく活用する研究デザインが必要だよなと思う。。。(本質ではないけど、LCの時点ですでに相当分析対象を限定してはいるんだよな、モゴモゴ。)

今回は未同定成分の同定を質量分析でやった論文を3つピックアップ。私自身はこの手の仕事をしたことがないので、どうやるのか一通り勉強です(大学の機器分析の授業でやってて朧げな知識としてはあるんだけども)。

1. Kaczmarek M et al., Optimization Strategies for Mass Spectrometry-Based Untargeted Metabolomics Analysis of Small Polar Molecules in Human Plasma.

www.mdpi.com

2. Rathahao-Paris E et al., Rapid structural characterization of human milk oligosaccharides and distinction of their isomers using trapped ion mobility spectrometry time-of-flight mass spectrometry.

https://analyticalsciencejournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/jms.4885

3. Watanabe T et al., Identification, Chemical Synthesis, and Sweetness Evaluation of Rhamnose or Xylose Containing Steviol Glycosides of Stevia (Stevia rebaudiana) Leaves.

https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.jafc.3c01753

 

ChatGPT (version Sept. 24) による3本の論文の要約はこちら。

第1の論文では、質量分析に基づくメタボロミクスの非対象的アプローチに焦点が当てられました。このアプローチは、健康と疾患の状態の調査、新しいバイオマーカーの同定、代謝経路の解明など、生物学的および化学的研究の多くの応用に大きな可能性を秘めています。しかし、質量分析装置の計器パラメータの複雑さが、分析方法の最適化を非常に難しくしています。この研究では、質量分析装置の設定を最適化する戦略が提案され、代謝物の検出に影響を与える重要な計器変数が強調されました。これにより、代謝物の広範なカバレッジを確保する新しい方法論的枠組みが示されました。

第2の論文では、イオンモビリティ-質量分析(IM-MS)を使用して、オリゴ糖異性体を分離する能力が評価されました。オリゴ糖は健康に不可欠な多くの機能を持ち、その多様な構造が特性評価を困難にしています。IM-MSは、質量、サイズ、形状、電荷に基づいて分子を分離する能力を持つため、オリゴ糖異性体を分離するための強力なツールとして浮上しています。この研究では、IM-MSのポテンシャルが人間の母乳オリゴ糖(HMOs)の特性評価に適用され、異性体の識別が可能であることが示されました。さらに、IM-MS分離とMS/MS実験の組み合わせにより、異性体を識別する性能が向上しました。これにより、オリゴ糖の特性評価に新たなアプローチが提供されました。

第3の論文では、Stevia rebaudianaの葉から得られるステビオールグリコシドの研究が行われました。これらのステビオールグリコシドは、食品業界で天然の低カロリー甘味料として使用されており、主要なグリコシド(例:ステビオシドとレバウディオシドA)の甘さはよく研究されています。しかし、ラムノースまたはキシロース残基を含む少量の自然物質の特性は不明瞭でした。この研究では、未報告のステビオールグリコシドが同定され、その甘さが評価されました。特に、キシロースを含むグリコシドであるレバウディオシドFX1が、食品業界で使用するための有望な天然甘味料の候補であることが明らかになりました。

結論として、これらの論文から得られる共通の洞察は、高度な分析技術と方法の開発が、異なる研究分野において新たな知識を提供し、科学研究と産業応用に貢献する重要性を示しています。環境、健康、食品分野におけるこのような技術の発展は、より持続可能な未来を築くために不可欠であり、新たな発見とイノベーションを促進します。

 

未同定成分を同定するときには、精密質量分析が効果的である。天然に存在する同位体の存在比から、理論上の精密質量パターンが計算できるので、小数点第4位くらいのデータがあれば、そこから構造式を推定することが可能。実際にはすでにフラグメントパターンのライブラリデータベースが整っているので得られた結果をデータベースに当てて物質を特定していく。ただし、単糖のように異性体(エピマー)がある場合はこれだけでは特定は難しく、別の分析が必要になる。とはいえ、質量分析は候補物質を得るという意味でも重要である。

論文1ではuntargeted metabolomeを題材として、網羅的な代謝産物分析を行うための条件を検討している。さまざまな成分が混在しているサンプルをLCで分離しMSMSで物質同定を行った。検出した成分に対して概ね10〜20%程度しか同定できない。LCで分離したとしても単一の成分になっているとも限らず、複数の成分のMSピークが混在してしまうのであればフラグメントパターンのライブラリは役に立たない。ある程度サンプルをクリーンにする必要があるのかもしれない。

論文2ではイオンモビリティー質量分析でヒト母乳に含まれるオリゴ糖18種類を分析した。この方法で全てのオリゴ糖を検出することが可能。

論文3では天然物(ステビア)に含まれる配糖体をLCMSMSで分析した例。フラグメントパターンから新規のオリゴ配糖体を検出することに成功した。この場合も既知の配糖体がグルコース・ラムノース・キシロースから構成されることが分かった上での分析なので、未同定物質の同定よりもヒントが多く、小数点第1位の質量分析値でも可能であったと言える。

全くの未知成分から物質を同定することは容易ではなく、いかに夾雑物の少ないサンプルを調製できるかがポイントになる。特に糖類は同一構造式の異性体が多いことから難易度は高く、何らかの方法で候補を絞り込む必要があるだろう。

 

以下はまとめを作るためのメモ

1. untargeted metabolomeは理論上は理想的だけど、実際にやるのはかなり難しい。one condition never fits allだな。そりゃそうよ。targeted metabolomeは定量評価、untargeted metabolomeはスクリーニングとか仮説を立てる時とか、要は「観察」が目的であって、研究の前段階に使われるもの。

メタボロームのLCでは逆相カラムかHILICカラム(親水性相互作用カラム)を使うのが一般的。基本的には展開相は高極性溶媒を使う、ということね。生体分子の分析にはHILICモードが今のトレンド。ヒトのサンプルを使ってuntargeted HILIC LCMSで分析をしてみました、という研究。

サンプル調製に使う溶媒と展開相が異なることでLCのピークが崩れることがよくあるそう。アセトニトリルの割合が展開相と異なってしまうとカラムに保持されないような成分も抽出されるなどの影響があるみたい。

供試サンプル量は少ないとピークがわかりにくくなる。そりゃそうだ。多くした時の影響はどうなるかは不明。5 uLがベストらしいがこれは分析装置によって異なりそうだよな。

分析する質量の範囲は67 - 1000 m/zがベスト。これはアセトニトリルのMWが41なので、低すぎる (50くらいから拾う例を試しているけど) とアセトニトリルを拾ってしまうってことなのかな。

検出したMSピークのうち、同定できるものって結構すくないんだな。10〜20%といったところ。untargetedの難しさってこういうところにもあるよな。結局LCで分けたとしても本当に単一の成分しかふくまれていないかというと、そういう保証はないしね。

質量分析の解像度は物質同定にはあまり関係ない、ということみたい。まあ、フラグメントのデータを丸めても同定は可能、っていうことなのかな。というかuntargetedだとそこまで解像度あってもあまり意味はない、ってことなのかもしれない。targetedだと少し話は違うかもね。

結局物質同定はライブラリ次第ってことなのかもしれない?cleanなフラグメントパターンのデータを取れるかどうかが勝負どころなんだろうな。

2. ヒトの母乳に含まれるオリゴ糖をMSで分析。ion mobility-mass spectrometryという手法をつかったとのこと。MS/MSができるのね。ヒトの母乳に含まれる糖はグルコースガラクトース、フコース、N-アセチルグルコサミン、シアル酸。なんだ、もうわかってんのか。

イオンモビリティー-MSというのは、質量分析器の中に窒素ガスが充満しているイオンモビリティー分析部が結合してあって、イオンの大きさによってイオンモビリティー分析部を移動する時間が異なることを利用した分析方法なんだそうだ。TOFMSと通常のMSを組み合わせた感じなのかな。

MSは糖はネガティブモードで分析するのが定石みたい。ポジティブモードでもできないことはないみたいだけど、3糖などの低分子はシグナルが弱くなる。ナトリウムやカリウム、カルシウム塩として検出される。結構簡単にコンタミするんだな。

すでにどの分子を定量するか決まっているからMSの精度が整数値レベル。まあ、そうだよな。イオンモビリティーで立体異性体を分けることができて、そのあとにMSMSを組み合わせることで全て検出可能。ポジティブモードかネガティブモードかはどっちか一方でOK、という結論。ちょっと今回のテーマにはあってなかったな、この論文。

3. ステビアに含まれる配糖体をLCMSMSで分析したら、新規配糖体を見つけました、という論文。構成糖はグルコース・ラムノース・キシロースに限定されている点では既知の配糖体と同じ。まあそうだよな。。。

配糖体のMSはネガティブモード。やはり糖分析はネガティブモードか。LCは0.2%酢酸の水/メタノールでグラジエント。MSのスキャン範囲は150 - 2000 m/z。分解能は60000。分解能の定義の仕方は2パターンある。測定値 / (ピーク高が半分のところのm/zの幅)で定義されるのが一般的みたい。m/zが大きくなるにつれて、ピークの幅は大きくなるんだね。低分子であれば、もっと小さくても良さそうだよな。

多糖をMSMSにかけるとグリコシド結合が切れる(加水分解)。1分子のグルコースが切れた時は180 - 18 = 162分小さくなる。水分子は本体の方に残る。ふむふむ。多糖だと小数点第1位くらいまでしかわからないものなんだね、きっと。というかそれで十分なんだよな。

新規の多糖は既知の多糖と構造が共通しているところがあるので、そこから違うところを特定していく。くっついている末端の糖の違い、という感じなので同定できるのかしら。最終的には化学合成して、味を確かめる、というところまでの研究。すごい。