論文レビューメモ

オープンアクセスの論文を一つのテーマに沿って3本ピックアップし、まとめています。2024年は生成AIを論文の執筆や解釈、まとめにどう使えるかを試していきます。

持続可能な食糧生産(2023年の認識)

持続可能な開発、という目標自体は30年以上も前からずっと言われてきたことだけれど、結局それが具体的になんなのか、と言う答えは誰もわからないまま今日に至る、というのが私の理解。それぞれの国が、それぞれの企業が、それぞれの人が今与えられた条件を元に、自分にとって最も納得感のある行動を取り続けるのが行動原理。にもかかわらず、あるべき行動の根拠になっているのが「強者」の出すデータであったり理論だったりするから「弱者」には納得感がなくてまとまらない、というのが変わらない構図なのかなと思う。

食糧生産については、私が学生の時に教わったのは、カロリーベースで考えれば、120億人くらいを養うことができる能力が地球にはあって、でも家畜を大量に育てようとすると、足りなくなる、という事実。動物性タンパクに過剰に依存しない食生活を維持することができれば多分大丈夫。そして何より、国連の世界人口推計では、推定中央値でみると2086年に世界人口はピークを迎えてこの時の人口は104億人の予想。農業生産が今のレベルで維持できるかどうかもわからないので、実際に物量として食糧不足になることはない、とは言い切れないんだけど、食べるものがどこにもなくて世界中で食糧争奪戦が繰り広げられる、ということはなさそう。地球規模で農業生産を分担しているので、生産よりも物流の問題の方が深刻だよね。

というわけで、2023年の今、持続可能な食糧生産、という課題に対してどんな論文が出ているかなというところでこちらの3本をピックアップ

 

1. Nielsen J et al., Innovation trends in industrial biotechnology.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167779922000750

 

2. Carletto FC et al., Sustainability in food service: A systematic review.

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/0734242X221122604

 

3. Gonçalves MLMBB et al., Circular Economy in the Food Chain: Production, Processing and Waste Management.

link.springer.com

ChatGPT (July 20 version) による3本の論文のまとめはこちら

※バージョンアップしてたのね

1本目の論文「Innovation trends in industrial biotechnology」では、微生物発酵技術が食品産業において持続可能な生産に重要な役割を果たすと強調されています。特に植物ベースの食品や代替肉・乳製品の需要増加に対応するため、新しいスタートアップ企業のイノベーションが市場拡大に寄与することが期待されています。

2本目の論文「Sustainability in food service: A systematic review」では、食品サービスにおける持続可能性に関するシステマティックなレビューが行われています。食品加工から廃棄物管理までの過程での廃棄物の問題と、循環型経済(CE)の概念が提案されています。特に「食品廃棄物」の管理や再利用、評価がCEの焦点とされ、環境への負荷軽減や食品の安全性向上が重要視されています。

3本目の論文「Circular Economy in the Food Chain: Production, Processing and Waste Management」では、食糧生産におけるCEの概念が重要であるとされています。食品加工から家庭消費までの過程で生じる廃棄物や石油化学プロセス原料の使用による資源の浪費を解決するためにCEが持続可能な解決策として提案されています。特に「食品廃棄物」の管理、再利用、評価がCEの中心的な要素とされ、生産チェーンの改善に向けた多くの提案が示されています。

これらの論文は、持続可能な食糧生産に向けた様々なアプローチを提供しており、微生物発酵技術やCEの活用、食品廃棄物の効果的な管理が食品産業における環境への負荷軽減と資源の効率的な活用に貢献する可能性が示されています。これらの知見を活かし、持続可能な食糧生産の実現に向けて継続的な取り組みが重要とされています。

※ちょっと思ってたのと違う論文を選んでしまった。

 

食料生産に関する課題を考える時、生産性をいかにあげるか、ということよりも環境負荷をどう減らすか、と言う方向に研究が向かっている。

論文1では微生物を使った環境負荷低減策として、微生物による窒素固定が提示されている。微生物による窒素固定というとアーバスキュラー菌根菌が著名だが、PivotBio社による微生物製剤が紹介されている。使われている微生物が特に窒素固定に特化しているようにも思えないが、効果があるとのことで、成功事例として紹介されている。微生物による窒素固定が可能になれば、白金を触媒として高温高圧で窒素をアンモニアに変えるハーバーボッシュ法が不要となる、という流れ。実際にハーバーボッシュ法に変わる方法になるだろうか?

論文2と3では食品ロスについての取り組みの重要性が述べられている。生産された食料の1/3が廃棄されるという報告から、生産時にも環境負荷がかかり、生産してから消費するまでにも環境負荷がかかり、消費した後にも環境負荷がかかる。できるだけ食品ロスを減らすため、まずは食品ロスを正確に把握しようというのが論文2の試み。システマティックレビューを通して実施したが、各論文の調査内容が不完全で、何がどれだけ、どう言う理由でロスになっているかは正確に把握することは難しい、と言う結論。逆に言えば、今食品ロスについて語られている内容は研究者の個人の印象に基づく論理である可能性が示唆されているとも言える。論文3ではどういう取り組みをすれば食品ログが減らせるかを概念として提示。手法を表す単語の頭文字をとって「ReSOLVE」と名付けられている。しかし、現実にこれを実践するにあたっては経済合理性に基づかないとインセンティブが働かないし、そもそも人間ってそこまで勤勉じゃ無い生き物なので、筆者が述べていることが実現するのは相当な努力やお膳立てが必要だろう。

 

以下はまとめを作るためのメモ

1. 持続可能な食糧生産に微生物発酵を利用しよう、という論文。

微生物発酵による工業生産は20世紀初頭から。アセトン、ブタノール、クエン酸が最初の物質か。そしてAspergillus nigerによる好気発酵でのクエン酸生産が1919年に始まったのが一つのブレイクスルーだった。工業的に好気的な発酵生産する時に必要な無菌空気を大量に供給できるシステムが確立した、と言うところが大きかったんだね。これが第2次世界大戦に向けたペニシリンGの生産につながっていった。このあたりの日本の事情は「碧素・日本ペニシリン物語」でも描かれていたけど、確か牛乳瓶で青かびを培養していて、その瓶が大量にあったから森永乳業がやれた、と言う話だったけど、その規模じゃ負けるよなぁ。。。。日本でこれができなかったのは好気培養のための無菌空気が作れなかったからってことか。1960〜70年代にかけて発酵によるアミノ酸が始まる。

一番売れてる薬は今は発酵で作っている、ということだけど、多分今一番売れてるのはmRNAワクチン、だよなぁ。。。インスリンは昔から大腸菌で製造しているということで有名だよね。

しばらく化学品の微生物発酵の内容があって、食のmega-trendの話に。

農業生産で微生物による窒素固定で窒素の化学肥料が不要になる、という技術開発がUSのPivotBio社が販売中。IPO目前。微生物製剤ということだけど、相当売れているみたい。Kosakonia sacchariとKlebsiella variicolaが主成分。組み換えているのかは不明。組み換え生物を土壌に放出していいのかどうか・・・はて。昆虫のホルモンを微生物に作らせる、という取り組みもある。これはデンマークの会社。BioPhero

動物性の食資源を取り除こうという取り組みが、wealthyでeducatedでinformedな消費者によってムーブメントになっている、らしい。トゲがある表現だねぇ。植物由来の「肉」に置き換えることでCO2は90%削減、水の消費は99%削減、エネルギーは50%削減できる。肉に近づけるためのキーワードはヘモグロビンとカゼイン。これを発酵で作ることができれば植物性タンパクは動物性タンパクに近づいていく。「精密発酵」というバズワードをよく聞くようになったけど(精密じゃない発酵なんてありえないんだけども)、適当に発酵させているものを作っている人がいいそうなことだよな、という個人の感想です。Impossible Foodsとかがその走り。

最後の方はFood Tech Startupが成功するための分析などが。これはこれで改めて読む価値あるかもしれない。ポイントは3つ。1つめは、マーケットの支配力について。バイオでは既存のマーケットを完全にひっくり返すことは難しいし、特許で技術を完全に守ることも難しい。一つの課題に対して複数のアプローチが有効であることが多い。なので、マーケットを完全に支配するような企業になるのはかなり難しいことを前提とする。これはTech企業と違うところ。2つめは方針の柔軟性。pivot(方針転換)できるように備えておくこと。技術プラットフォームを活かして切り返すことを常に考える。3つめはマーケットからのフィードバックを受けてそれを反映させること。ふむふむ。

2. 食品ロスの問題について。システマティックレビューを行って食品産業の持続可能性について、生産と廃棄の観点から検討した。Food service、ということなので、外食ということかな。世界の食品ロスは年間130億トン。7500億ドルの廃棄費用がかかっているとの試算(FAO 2011)。持続可能性の指標を評価することを目的。

食品ロスの主な原因は消費期限切れ、作りすぎ、過剰なrest-intake(予備、かな)、おいしくなくて食べ残す、だそうです。システマティックレビューの結論としては、適切な指標は提示されていなかった、ということみたい。つまり、食品ロスという現象は正確には把握されていない、ということがわかった、ということ。食品ロスは大量に出ているけれども、それがどういった理由で生まれているか、とかどうすれば減らすことができるか、というのはあくまでもそれぞれの研究者の個人的な印象の域を出ていないと言うことなのかもしれない。

3. こちらは循環経済という考え方について。食糧の循環経済化について新しいモデルを示す論文。地球上の耕地面積は48億ヘクタール (2018) と推計されていて、生産された農産物の25%が廃棄される推計。食品ロスを減らすにはReSOLVEという考え方がいいよ、という話。Regenerate, Share, Optimize, Loop, Vitualise, Exchange。リデュース・リユース・リサイクル、みたいなことね。ユリコ的なこと。でも結局経済性が伴わないとこう言う提案って掛け声だけで終わっちゃうんだよね。。。