論文レビューメモ

オープンアクセスの論文を一つのテーマに沿って3本ピックアップし、まとめています。2024年は生成AIを論文の執筆や解釈、まとめにどう使えるかを試していきます。

グルテンフリーと代替物

北米・欧州の人にとっては結構深刻な問題となっているグルテン関連疾患。アジア人にはほとんど影響ないので、ピンと来ないところはあるけれど、患者は増加する傾向にあることが予想されている。セリアック病やアレルギー等の健康上の理由からグルテンフリーを必要とする人もいれば、ファッションでグルテンフリーを志向する人もいて、一概にグルテンフリー市場、といっても均質な市場ではなさそう。

グルテンフリーを実現するには小麦を使わないで小麦で作っていたものを作る、というアプローチになる。基本的にグルテンフリーが求められているのは欧米なので、欧米で馴染みのある食材を使われることが多く、とうもろこし、キヌアあたりが最初の選択肢になるようす。コメという選択肢もあるけど、コメを粉にして食べても合わないんだろうね、たぶん。とうもろこしが使えるならとうもろこしにするよなぁ。。。コメは粒で炊いて食べるのが一番美味しい、というのが人類が7000年くらいかけて出した答えなんだと思う。まあ、おせんべいとかフォーとかもあるんだけども。

というわけで、グルテンフリーに関する研究でピックアップした論文3本はこちら

1. Daly M et al, A chromatographic and immunoprofiling approach to optimising workflows for extraction of gluten proteins from flour.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1570023222004597

 

2. Ammar I. et al., Optimization of a novel, gluten-free bread's formulation based on chickpea, carob and rice flours using response surface design.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405844022034521

 

3. Rumler R. et al., Mitigating the Effect of Climate Change within the Cereal Sector: Improving Rheological and Baking Properties of Strong Gluten Wheat Doughs by Blending with Specialty Grains.

www.mdpi.com

 

ChatGPT (May 24 version) による3本の論文のまとめはこちら

これらの3つの論文は、グルテンフリーな食品の開発に焦点を当てています。グルテンはセリアック病やグルテンアレルギー患者にとって問題を引き起こすため、代替手段が重要となっています。また、気候変動による小麦粉の品質変化も、グルテンフリーな食品の製造に影響を及ぼしています。

論文1では、マススペクトロメトリー法を使用して、グルテン含有量の確認に新たな手法が提案されました。これは免疫測定法と補完的な役割を果たすものであり、安全な食品選択をサポートするための重要な手段となることが示唆されています。また、抽出手法の検証において、脂肪除去処理が抽出効率に悪影響を及ぼすことがわかりました。

論文2では、ひよこ豆、カロブ、米粉といった代替穀物を使用してグルテンフリーなパンの開発が試みられました。Box-Behnken実験設計を用いて配合の最適化が行われ、特に低い添加量である5%のソルガムとミレットが、高グルテン小麦粉の生地の安定性を向上させることが示されました。これにより、持続可能な製品開発が可能となり、気候変動による小麦粉の品質変化に対処する手段が提供されます。

論文3でも、気候変動の影響を考慮して、グルテンフリーな食品の開発が研究されました。ソルガム、ミレット、アマランサスなどの穀物を混合して使用し、グルテンフリーな食品の製造に適した小麦粉を作成する試みが行われました。これにより、食品の多様性と栄養価が向上し、持続可能な食品開発が促進されます。

これらの研究により、グルテンフリーな食品の開発はセリアック病やグルテンアレルギー患者の健康を考慮しつつ、持続可能性を追求する重要なトピックとなっていることが分かります。気候変動による小麦粉の品質変化への対応や、新たな分析手法の導入など、今後のさらなる研究と技術の進展に期待が寄せられています。

※論文2では高グルテン小麦の話はしてないな。

 

グルテンフリーは疾患(セリアック病)に関連しているので、適当な定義では健康被害が出る可能性がある。グルテンの測定方法は国際的に標準手法が定められているが、分析できていないグルテンに関連するタンパク質があり、より正確な分析が論文1で提案されている。グルテンは小麦タンパク質中の80%を占めると言われているが、グルテンそのものは単一のタンパク質ではなく、グリアジンとグルテニンという2種類のタンパク質がジスルフィド結合によって架橋構造を作った複合体である。現在の分析法ではグリアジンのみが分析対象となっており、グルテニンの影響が無視されている点に注目している。実際の運用ではグルテンが20ppm以下をグルテンフリー、100ppm以下を低グルテンというと定義されているけども、グリアジンとグルテニンのトータルで測った場合、今グルテンフリーとされているものも20ppm以下にはならないだろう。とはいえ、現状この方法で特段の問題が出ていないのであれば、より精度が高い測定方法の必要性は薄いのかもしれない。小麦中のグリアジンとグルテニンの構成比率が極端に変わるような事象が発見されれば、この論点について改めて考える必要があるだろう。

グルテンフリーを実現するときに、検討しなくてはならない論点として「嗜好性・栄養性」という消費者の視点と「製造特性」という供給側の視点がある。論文2は嗜好性・栄養性の観点から、論文3は製造特性の観点から小麦代替品を用いたパンを題材に検討が行われている。小麦を一切使わずに作るパンは小麦のパンと比べて嗜好性の点で敵わない、というのが結論。小麦を30%加えると嗜好性が向上するので、グルテンフリー・低グルテンとおいしさを両立するのは簡単なことではない。一方、製造特性の点から言うと、ソルガムやミレットが比較的良好な結果を示した。具体的には生地の粘り・伸びやすさ・水分吸収力などで評価されている。最終的なパンを作って評価すると、ソルガムやミレットを40%含むものが最も膨らみを維持できることがわかった。ただ、これを低グルテングルテンフリーの取り組みと言うには小麦が多すぎる印象。この二つの論文から言えることは、低グルテングルテンフリーを実現しつつ、高い嗜好性・製品特性を維持することは簡単ではなさそう。逆に言うと、美味しいものができれば高く売れるのだろう。

 

以下はまとめを作るためのメモ

1. 世界の全人口の1%がセリアック病という推計もあるそうな。7〜8億人くらい。セリアック病は免疫疾患で治療法は確立されていない。疾患と関連するので「グルテンフリー」を表示するためには厳密な分析が必要。グルテンはグリアジンとグルテニンがジスルフィド結合で架橋構造をとってできるタンパク質。今はCodexで定義されている方法に従って抽出して免疫標識法 (ELISA) で分析しているけど、これだとグルテニンを正確に評価できてない可能性があるので、改良法を提案する、と言う流れ。基本的に今はαグリアジンを分析しているんだね。(グリアジンも分子量によってα、β、γ、ωがあるよ)グルテニンも免疫反応を引き起こす可能性を確認しているので、今のグリアジンだけを調べる方法では不十分、という立場からの提案。標準法では40 - 70%のエタノールで抽出する。これを50%プロパンジオールに尿素とDTT(ジチオストレイトール)を入れたバッファーで抽出する工程を追加する、と言う提案。これをELISAではなくてMSで分析、と言う流れだけど、結構大変。精度を極めすぎて実用的でなくなるっていうのは、どこかで聞いた話だよなぁ。日本に限らずどこでも起こることなのかもね。

 

2. 米粉ひよこ豆、キャロブ(カカオに似た豆だそう)の混合粉末を使っておいしくて栄養価のあるグルテンフリーパンを作る、というところからスタート。この論文では嗜好性と栄養価を重視。過去の論文で米粉ひよこ豆:キャロブ=5:4:1のグルテンフリー粉末が良いとされたけど、今回の検討でこのグルテンフリー粉末70%、小麦粉30%をつかったものが一番おいしかった(膨らみ具合や不可食部分の発生量のような観点についてもいい結果だった)。グルテンフリーじゃないな。やっぱり100%グルテンフリーで小麦使わないってなるとおいしくないんだよなぁ。。。

 

3. 気候変動と小麦のタンパク質含量の関連が指摘されている。小麦の収穫時期に高温にさらされるとタンパク含量が増加して、グルテン量も増える。パンやパスタには好都合だけど、ケーキやクッキーには不都合。なので、グルテン形成を抑える方法を考えましょう、という立ち位置。ヨーロッパは気候変動への恐怖感っていうのが結構強いみたいね。地中海沿岸では高温になることが増えているみたい。小麦に何かを混ぜる、というのは栄養学的な見地から研究されてきたけど(論文2のような報告ね)、製造上の特性という見地からは考えられてこなかったので、それについて取り組む、ということ。ソルガム、ミレット、アマランサス、ソバを使って試しました。と言う流れ。他の穀物を入れれば総重量あたりのグルテン量が減るから膨らみ具合が小さくなるのは当然だけど、品質を保ちながらどれだけたくさんグルテンフリーの穀物を入れられるか、と言うところが研究のポイント。ソルガムとミレットが結構たくさん (40%) 入れても品質落とさずに作れるのに対して、アマランサスとそばは2.5 - 5%くらいで品質悪化が確認されてイマイチ。という結果。入れる穀物によってもその影響って変わるんだな。