論文レビューメモ

オープンアクセスの論文を一つのテーマに沿って3本ピックアップし、まとめています。2024年は生成AIを論文の執筆や解釈、まとめにどう使えるかを試していきます。

コリネ型細菌の代謝改良による物質生産

生き物である微生物を工場とみなして、代謝経路を改変し人にとって有用なものを作らせる、という発想はとても西洋的・合理主義的な感じがする。生きとし生けるもの、そのままの有り様を尊重してみんな違ってみんないい、とはちょっと遠いところにあるよね。

微生物に物質生産させるというのは、とてもエネルギー効率が良いことなんだ、と学んだけど、実際に応用の現場で取り組んでみると、結局のところケースバイケース、みたいなことになる。原料から目的の物質ができるところまではエネルギー効率がいいかもしれないけど、その物質を精製して、使えるようにするまでを考えると、コストに見合うレベルで物質生産できる微生物ってそうそうない。原料も高価だったりするし、スケールメリット出しにくいとか。思ってるほど簡単な話ではないよね。結局アクリルアミドくらいしかないのかな(それも純粋な発酵ではないし)。

グルタミン酸生産で有名なCorynebacterium glutamicumを使った物質生産の話。ポリマー、またはプラスチック原料になりそうな官能基が2個以上のアルコール・カルボン酸の生産の論文をピックアップ。C. glutamicumはアミノ酸生産を目的として色々代謝経路をいじられまくって研究されているけど、やっぱりグルタミン酸・リジン(リシン)以外はそこまで大量生産できていないのかなと言う印象。

・・・ここまで書いてきて思うは、やっぱり専門でやってきたことだから思うところが結構あるんだなという自分の内面の気づき。

 

今回選んだ論文3本はこちら

1. Kou M et al., Metabolic engineering of Corynebacterium glutamicum for efficient production of optically pure (2R,3R)-2,3-butanediol.

microbialcellfactories.biomedcentral.com

 

2. Yim SS et al., Rapid combinatorial rewiring of metabolic networks for enhanced poly(3-hydroxybutyrate) production in Corynebacterium glutamicum.

microbialcellfactories.biomedcentral.com

 

3. Schmollack M et al., Metabolic engineering of Corynebacterium glutamicum for acetate-based itaconic acid production.

biotechnologyforbiofuels.biomedcentral.com

 

コリネ型細菌の研究といえば、ドイツか日本か、という時期もあったけど、やっぱり中国勢が強いですね。

ChatGPT (May 24 version) による3本の論文のまとめはこちら

2,3-ブタンジオール、ポリヒドロキシアルカノエート(PHAs)、およびイタコン酸は、バイオベースの化学産業において有望な化合物です。これらの化合物は、医学、化学産業、食品などの幅広い分野で応用される可能性を秘めています。

論文1では、Corynebacterium glutamicum株を改良して、(2R,3R)-2,3-ブタンジオールの効率的な生産を実現しました。遺伝子の組み込みや発現レベルの調節、代謝経路の再配線などの手法を用いて、最適な生産株を開発しました。

論文2では、C. glutamicumを用いて、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(PHB)の生産を高効率化するための代謝ネットワークの再配線戦略が提案されました。遺伝子発現の最適化や代謝経路の改良を行うことで、高い生産性と細胞内PHB含量を実現しました。

論文3では、C. glutamicumを非食品基質である酢酸からイタコン酸を効率的に生産するために、中心炭素および窒素代謝の再配線が行われました。遺伝子の不活性化や発現の最適化などの手法を用いて、酢酸を代謝基質とするイタコン酸の生産性を向上させました。

これらの研究は、微生物の遺伝子工学代謝工学の進歩を活かして、持続可能なバイオベースの化学生産を実現するための手法や戦略を提案しています。微生物の代謝ネットワークの再配線や遺伝子の組み込み、発現レベルの調節などの技術を駆使することで、目的化合物の効率的な生産が可能となりました。

これらの研究は、バイオエコノミーの中で食品や飼料との競合を避けつつ、代替基質から価値のある化合物の生産を実現することへの貢献を示しています。また、微生物工学や代謝工学の進歩によって、持続可能な化学産業の実現に向けた新たな展望が開かれています。

※すごくいい感じにまとまってる。

コリネ型細菌を化学品原料の発酵生産に使う試みは以前から行われていて、その象徴的なものがコハク酸。ブタンジオールとコハク酸のポリマーは生分解性プラスチックとして実用化されている(けど、ポリエチレンとかポリプロピレンとかには全然敵わないけども)。今回の論文は化学品原料として有望なモノマーやポリマーそのものを作ってしまうという試み。これらの試みは10年以上前から行われているから、少しずつ改善していっている、という状況なんだろう。

論文1はブタンジオールの発酵生産の試み。論文2はポリヒドロキシブタン酸の発酵生産、論文3は酢酸からのイタコン酸発酵生産の試み。全ての論文に共通しているのは、異種遺伝子や合成プロモーターなど、コリネ型細菌にもともとあるものではないものを組み入れて代謝経路を改変しているところ。以前は異種遺伝子は組み込んでもうまく発現しないとか機能しない(フォールディングに問題があるのかな)とかがあって、できれば避けた方がいいアプローチ、という印象があったけど、むしろ、どの種の遺伝子を引っ張ってくれば一番生産効率をあげられるか、という見極めが最大の研究の見せ所になっているのかもしれない。コリネ型細菌が持つ、強力な糖消費・菌体生成能を生かして、高効率な異種の生合成酵素を組み合わせる、っていうところがコリネ型細菌の活用方法なのかもしれない。

やっぱりこのジャンルは面白いな。またこういう研究をやれる時が来るといいんだけどな。

 

以下はまとめを作るための各論文のメモ

1. ブタンジオールの中で一番有用なのは1, 4ブタンジオール。炭素鎖の端っこに官能基がついている方が脱水縮合反応が起こりやすいよね。でもこれが代謝反応を使って作るのは難しいんだ。2, 3-ブタンジオールの報告に偏ってる印象ある。

今の所のチャンピオンデータはKlebsiella pneumoniae SDM(野生株)の38hで150 g/L 。光学的な純度も考慮するとEnterobacter cloacae SDM 09の44時間で152 g/L。もしくはBacillus licheniformis の42時間で123.7 g/L。野生株でもたっぷり作るな。

2, 3 ブタンジオールはピルビン酸2分子から脱炭酸反応が起きてできる1分子のアセト乳酸が前駆体。さらに脱炭酸してアセトインになるとC4化合物。水素付加が起きて2, 3-ブタンジオール。 

ベースにしているのがアセトイン生成株。アセトインから2,3-ブタンジオールに水添する反応酵素(ブタンジオールデヒロドロゲナーゼ bhdA)をB. subtilisのものを構成的に発現するプロモーターをくっつけて導入。もともとアセトイン意外に流れる必須前駆体以外の経路は潰してある。ごくごく一般的な代謝改変の戦略。ひょっとして導入する遺伝子をどの生物から持ってくるのか、っていうのが腕の見せ所になっているのかもしれない。さらにH+-ATPase欠損を加えた株、これにbdhAの過剰発現とNADH<->NADPHの変換をするudhAを増強した株を作って評価。bdhA+ udhA+はやりすぎだったみたい。解糖系の物質を前駆体とするものについてはH+-ATPase欠損は効くんだね。

2,3-ブタンジオールの生産性は酸素の供給が制限されている方が高い (NADHを多く必要とするから)ので、微好気的 (0.5%〜1%) に培養するのがポイント。144.9 g/Lが最終濃度。ジオールがこの濃度でよく菌体が溶けないね。ODは少しずつ低下しているけどこれくらいなら大丈夫なのかね。

2. PHA (ポリヒドロキシアルカン)の合成。ポリ乳酸をコリネで作る取り組みしてたけど、より物性の良いPHBが研究の中心。論文にも三菱の名前が出てくるね。まあ、分解可能ではあるけども、放置していたら勝手に分解するって言うわけでもないんだけども(分解してくれる微生物との接触が必要)。Ralstonia eutrophaの経路をコリネに導入。今は異種遺伝子の導入が一般的なのかしら?PHBの前駆体はアセチルCoA。ポリマーだから菌体内に蓄積されるから、定量は蛍光強度で見る。PHB生産の鍵は前駆体のアセチルCoAの供給とNADPHの還元力。NADHではないところがポイントだね。

前駆体と還元力の供給バランスが一致しないと生産量が増えない、ということから、プロモーターとリボソーム結合サイトによる発現量の制御を試みる。キーとなるNADPH生成経路の酵素 (fbp, acnR, mez) 3つを20種類のプロモーター配列と3種類の異なる結合強度を持つリボソーム結合サイト(RBS)を組み合わせて、最適な発現量を検討。ランダムに組み合わせた遺伝子セットライブラリを作って形質転換。一番生産量の高いものを選抜する、という戦略。力技〜。ベストな組み合わせはfbpが中程度の強さのプロモーター+中程度の結合強度のRBS、acnも同じ。mezは最強のプロモーター+最弱の結合強度のRBS。強ければいいと言うものでもないんだけど、中程度でいいかというとそうでもないっていう結果なのかしら。全てを最強にした時と比べて4倍くらいになっている。基質をフルクトースにしたら、別のプロモーター・RBSの組み合わせが最大生産量になるので、基質によって最適な発現量の組み合わせが変わると言える。菌体質量の3割がPHBになっても平気っていうのがすごいことね。Ralstoniaでのチャンピオンデータが50wt%なので、これくらいは当然平気なのかしら。

3. イタコン酸はジカルボンでポリマー原料になりそうだけど、ケトン基があるのが邪魔だよね。水添すればいいのかもだけど、わざわざするならターゲット変えれば、っていう反論ある。大量に安くできればまた話は違うのかもだけど。

イタコン酸はTCAサイクルのcis-アコニット酸が前駆体。いやcisアコニット酸ってもともと不安定な上に、アコニターゼでクエン酸→cisアコニット酸→イソクエン酸まで行ってしまうから、引っ張ってくるのは結構大変そう。イタコン酸はAspergillus terrusが発酵宿主でグルコースを基質にして129 g/Lくらい作る。これは酢酸を基質にして作らせる取り組み。酢酸を基質にする意味ってどう言うところにあるんだろう。学術的な興味?石油精製の副産物を利用するって言う感じ?

コリネはもともとイタコン酸を作らないけど、A. terrusのcisアコニット酸デヒドロゲナーゼを導入すると作るってことがわかっている。こうなるとA. terrusのTCAサイクルの方が気になるな。

酢酸を基質にするので、糖新生経路とクリオキシル経路が亢進するのが前提。PEPCkの活性を下げてオキサロ酢酸からPEPに戻る経路を下げてTCAサイクルの流量を保つ、という作戦。でも生育しなかった。(まー、そうね。糖新生できなくなっちゃうからね。)次に狙ったのがグリオキシル経路。イソクエン酸コハク酸に流す経路を抑えることで下流側を詰まらせる作戦。ramBはイソクエン酸リアーぜ(グリオキシル経路の初発酵素)とリンゴ酸シンターゼ (グリオキシル酸からリンゴ酸を生成)の発現量を増やす転写制御因子。でもこれを削除してもイタコン酸の生成量は増えず。

なんやかんやして結局窒素制限とか培養温度とかをいじり始めて、結局うまくいかなかったのかな、というところか?窒素欠乏にするとイタコン酸の生成量が増加する知見があったので、それに倣った、ということになると、ちょっと苦しいね。最終的に最大5 g/Lくらいできた。酢酸をC源とするところにメリットあるのかも。酢酸をC源にして大量に消費できるコリネ型細菌の特徴を活かす取り組みというところに意義があるのかな。