論文レビューメモ

オープンアクセスの論文を一つのテーマに沿って3本ピックアップし、まとめています。2024年は生成AIを論文の執筆や解釈、まとめにどう使えるかを試していきます。

代謝フラックス解析

博士課程の学生だったころ、プログラマ/エンジニアとしてのキャリアと発酵工学・代謝工学研究者としてのキャリアの重なるところが自分の強みを活かせる領域かなと考えていた。いわゆる「バイオインフォマティクス」がそれに当たると思っていたが、その中でもフラックス解析が最もマッチするかなと思い、MIT Stephanopoulos Labに留学して勉強して、会社に入っても基礎研究をやらせてもらったけど、経験を活かしきれていない。なんとも惜しい。何かと組み合わせることに新しい方向性がありそうなんだけどもまだ思いつかないんだよな。

そんなこんなで2020年代のフラックス解析の現状をキャッチアップするために選んだ論文3本はこちら

1. de Falco B et al., Metabolic flux analysis: a comprehensive review on sample preparation, analytical techniques, data analysis, computational modelling, and main application areas. RSC Adv. 2022 Sep 7;12(39):25528-25548. doi: 10.1039/d2ra03326g. 

doi.org

 

2. Schoppel K et al., Metabolic control analysis enables rational improvement of E. coli L-tryptophan producers but methylglyoxal formation limits glycerol-based production. Microb Cell Fact. 2022 Oct 4;21(1):201. doi: 10.1186/s12934-022-01930-1.

doi.org

 

3. Lugar DJ, Sriram G (2022) Isotope-assisted metabolic flux analysis as an equality-constrained nonlinear program for improved scalability and robustness. PLoS Comput Biol 18(3): e1009831. https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1009831

doi.org

 

ChatGPT (May 24 version) による3本の論文用紙のまとめはこちら

代謝フラックス解析は、細胞の代謝フラックスを定量的に記述し、環境や遺伝的な変化による代謝現象を理解するための重要な手法です。最近の進展により、安定同位体を用いた13C-MFAが中心代謝の研究において非常に有益な方法となっています。この手法では、細胞培養や標識トレーサーの準備から始まり、代謝物の抽出、解析までの一連の手順が重要です。核磁気共鳴スペクトロスコピーと質量分析法を組み合わせることで、13C-MFAの解析が行われます。計算モデリングと最適化アルゴリズムを用いたNLPのアプローチは、大規模なネットワークにおいても効率的な解析が可能であり、代謝フラックス解析の応用を広げることが期待されています。

一方、具体的な応用例として、大腸菌を用いたL-トリプトファン生産の改良が挙げられます。従来はブドウ糖を基質としていましたが、より持続可能なグリセロールを代替炭素源とすることで、代謝経路が変化し、新たな制御点や調節機構が現れます。このような変化を詳細に解明するために、代謝解析とMCAが適用されました。これにより、L-トリプトファンへの炭素フラックスを制御する酵素の同定が行われました。さらに、これらの酵素を標的的に過剰発現することで、L-トリプトファンの生産効率が向上することが示されました。また、このプロセスにおいて生成される有毒代謝物であるメチルグリオキサール(MGO)の役割も解明されました。MGOの解毒酵素の発現上昇や供給速度の調節により、L-トリプトファンの生産量が増加することが示唆されました。

代謝フラックス解析の研究は進化を続けており、より大規模なネットワークや複雑な生物系への応用、高速で堅牢なデータ解析手法の開発が求められています。将来的には、この手法のさらなる発展や応用範囲の拡大が期待されます。代謝フラックス解析は代謝工学のみならず、医療やバイオエネルギー、バイオプラスチックなどの産業分野でも活用される可能性があります。さらなる研究や技術の進歩により、代謝フラックス解析は生物系の理解や応用の幅をさらに広げることが期待されます。

※ChatGPTは貼り付けた順番にまとめる傾向があるので、それぞれの文章の意味づけやまとめ方についてはこちらの知性にかかっている感じですかね。

 

発酵による物質生産を効率化させるために、フラックス解析によるボトルネックの特定は有効だと考えられる。近年ではガン細胞の研究にフラックス解析が導入される例もあり、応用範囲は広がる可能性がある。フラックス解析の手法としては様々なものがあるが、基本的な考え方は物質の入と出からどの代謝経路が太いか・細いかを判定するものである。flax balanace analysisが最も原始的で、最も網羅的な手法だが、その分解像度に限界がある。一般に代謝経路は複雑なネットワークになっていて、単純な一方通行ではないから、正確に把握するためには、その経路を辿ったのか足跡が残るような仕掛けが必要になる。それが炭素の安定同位体13Cを使ったもので、使用する13Cの基質数と13Cが細胞内で定常状態かどうかによって解析方法が分かれている。

フラックス解析のボトルネックは実験側と解析側のそれぞれにあり、実験側では13Cが高価であり、そう簡単に実験ができないということが最大の問題だと言える。加えて全ての代謝産物を捕集し分析することも不可能なので、必ず見落としが発生する。解析側では、解像度を高くしようとするほど、そして経時変化を把握しようとするほど計算量が膨大になる。計算機のリソースに限界があるだけでなく、解が得られたとしても誤差が大きくなる可能性があり、そのハードルをいかに克服するかが研究の中心となる。

代謝フラックス解析を物質生産に応用した例はいくつかあるが、その多くが中枢代謝(解糖系、TCAサイクル、ペントースリン酸経路、アナプレロティック経路等)に近い代謝産物が多い。これは二次代謝産物の経路にいくほど誤差が生じやすいことが想定されるため、有効な手段となりにくい。しかしながらリボフラビンの物質生産に活用される例もある。大腸菌で芳香族アミノ酸であるトリプトファンの生産効率向上にフラックス解析を応用した例では、あらかじめターゲットとした酵素の過剰発現株で発生した副生成物を減らす取り組みに使われている。副生成物に毒性があり、それを無毒化する代謝経路の選択に用いられた。

ただ、このフラックス解析は、既知の代謝経路によって作られる代謝産物をターゲットとする場合、CRISPER-Cas9のような技術によって遺伝子改変がより容易になっている現在では、できるだけ少ない遺伝子改変で最も高い生産効率を達成させようというモチベーションが起こりにくい。遺伝子改変に制限が必要だ、というような倫理的なパラダイムシフトが起これば、より重要性が増すように思えるが、今のところ、フラックス解析なしでは生産性の向上は実現し得ない、という世界にはなりにくいのかもしれない。

 

以下はまとめを作るためのメモ

1. フラックス解析で提唱されている7大手法:flux balance analysis (FBA), MFA, 13C-MFA, isotopic nonstationary MFA (INST-MFA), dynamic MFA (DMFA), 13C-DMFA, and COMPLETE-MFA。いつの間にこんなに増えたんだ。FBAと13C-MFAあたりが馴染みあるけども。FBAが全ての代謝反応をモデルの中に組み込んでいるのに対し、それを中枢代謝(主要代謝経路)に限定したのがMFAという位置付け。それを13C同位体で実際にどの代謝経路にどれだけの炭素が使われたかを追いかけるのが13C-MFAとCOMPLETE-MFA。13Cを含む基質を一つ使うのが13C-MFA、13Cが基質中に1つだけ入っているものを複数種類使って解析するのがCOMPLETE-MFA、と呼び分けている。でも13Cの気質を取り込んで定常状態になるまでには結構時間がかかるので、それを解決するのが13C-INST-MFA。定常状態になった代謝経路に13Cの基質を与えてどのように変化していくかをみて、代謝経路のフラックスを推定する。このアプローチは計算機のリソースが必要になるけど、elementary metabolite unit (EMU) と言う考え方で計算量を減らすことができる。 DMFAは定常状態を想定しないで、常に変化し続けることを想定。13Cを使ってデータを取りながら推定していくのが13C-DFMA。定常状態を想定しないアプローチは計算量が多くなるので、そこが律速要因。13C基質を使うのがいまでも最も定番手法。しかし試薬がかなり高価。そして経験上、本当の意味での律速を知るためにはCの標識だけでは足りなかったりするんだよな。安定同位体の試薬が格安で手に入るようになれば、この技術もより発展するのかもね。代謝産物の分析はNMR、GC-MS、LC-MSがあるけど、GC-MSがよく使われている。でもイオン化する時にGC-MSはどうしてもフラグメント化してしまうので、LC-MSのほうが情報の純度の観点からは好ましい。解析ソフトウェアも各種作られていたり、市販されているものもある。この研究分野自体の発展が止まっているわけではないんだな。応用先も中枢代謝に近い代謝産物の生産性向上だけではなくて、ちょっと遠いところの代謝産物(アセトール・リボフラビン)にも応用されている。ボトルネックを特定してそこを改良することで生産性を上げる、というのがフラックス解析の真の利用方法だと思うけど、代謝経路がわかっているんだったら手当たり次第酵素発現強めれば良いんじゃないか、という強引なアプローチを否定する理由が欲しい。(これは会社で基礎研究してた時にも言われたことだけども)。

 

2. 大腸菌トリプトファンの生産性向上に代謝フラックス解析を利用した応用事例。先行研究からターゲットとした4つの酵素の過剰発現によって、意図しない副生成物の増加を観察。まあ、既知の代謝経路に従って生成系の増強と消費系・流出系の欠損、というアプローチは変わらず。できるだけ少ない変異で最大の生産効率を達成する、というところに対する美意識の問題か。

 

3. inst-MFAの計算方法として、non-linear programが使えるのでは、という論文。難しいな。inst-MFAの課題は計算量が多くなってしまうことが問題。代謝産物を各原子の標識のされ方を区別するようにモデルを組むのではなくて、大まかなユニットごとに代謝産物をとらえるEMUという考え方で計算量を省く、という手法が採用されているけれども、非線形計画法で計算量を省けるのでは、という話。フィッティングだと時間かかるけど、最大(小)化問題でラグランジュの未定乗数法みたいに解けるんだったらそりゃ速いわな。非線形計画法を解く代数モデルシステムっていうのがあるんだそうだ。こうなるともう数学だね。システムエンジニア代謝工学のキャリアの重なるところという安直な考えで手を出したけど、数学の素養が必要な領域だったってことがよくわかります。