論文レビューメモ

オープンアクセスの論文を一つのテーマに沿って3本ピックアップし、まとめています。2024年は生成AIを論文の執筆や解釈、まとめにどう使えるかを試していきます。

漬物と香りの成分

講演が来月に迫ってきているので、関連する研究を基礎知識としてフォロー。漬物と香りの成分についてまとめておく。

自分がやった研究と重なる部分もあれば、重ならない部分もあるので、自分なりの解釈をまとめておいた方がいいだろう、というのが今回の目的。

今回選んだ論文はこちらの3本

1. Tomita S et al., Metabolomic evaluation of different starter culture effects on water-soluble and volatile compound profiles in nozawana pickle fermentation.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666566221000101

 

2. Wang M et al., Detection of the Inoculated Fermentation Process of Apo Pickle Based on a Colorimetric Sensor Array Method.

www.mdpi.com

 

3. Zhang S et al., Effects of Brines and Containers on Flavor Production of Chinese Pickled Chili Pepper (Capsicum frutescens L.) during Natural Fermentation. 

www.mdpi.com

 

ChatGPT (version Aug 3) による要旨のまとめはこちら

これらの3つの論文は、異なる角度から漬物の揮発性成分および香り成分に焦点を当てた研究を紹介しています。

まず、初めの論文では、野沢菜の乳酸発酵ピクルスにおける異なる発酵菌の影響が評価されました。主に水溶性および揮発性化合物が分析され、発酵菌によって味や香りに関わる成分が異なることが示されました。特に、Latilactobacillus curvatusの使用により、イソチオシアネートやヘキサン酸の含有量が増加し、一方で乳酸や酢酸の含有量が低下したことが観察されました。

2番目の論文では、中国の伝統的な発酵野菜「アポピクル」に関する研究が行われました。高塩耐性・酸性化能を持つL. Plantarumを使用した発酵プロセスを解析し、アポピクルの発酵度を早急に検出する手法として色彩センサーアレイ(CSA)が開発されました。このCSAは、pHや有機酸、乳酸、揮発性酸と相関することが示され、アポピクルの発酵過程を迅速に判別できることが示唆されました。

最後の論文では、漬け込み唐辛子の発酵プロセスにおいて、塩水の種類と容器の影響が香り成分に与える影響が調査されました。老化した塩水を使用することで、有機酸や糖分が増加し、アミノ酸生成が促進されることが示されました。また、塩水と容器の組み合わせによって、香り成分の種類や含有量が変化し、特に老化した塩水を使用するジャー容器による発酵が、ピクルスされた唐辛子の風味に豊かさをもたらすことが示唆されました。

これらの研究は、漬物の発酵プロセスや成分組成がその風味特性に与える影響を詳細に探求し、異なる要因が漬物の香り成分にどのような変化をもたらすかを示唆しています。

※具体的な化合物名を挙げながらまとめてとお願いしたけど、1本目の論文についてしか返してくれなかったな。

 

漬物に含まれる芳香成分は、漬物の原料野菜にもともと含まれていた成分と発酵によって生み出された成分、またはそれを基質とした酵素反応によって生成された成分に分類できる。

漬物原料によく用いられるアブラナ科の野菜にはイソチオシアネート、チオシアネートの前駆体(グルコシノレート)が含まれており、自身が持つ酵素によって辛味を持つチオシアネートになる。これが漬物の中に残っていて、独特の風味をもたらす。長期間漬け込まれるとチオシアネートは分解され、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドになると考えられている。これらは分子の中に硫黄原子を含む含硫化合物で、独特の匂いを持つため、漬物の香りを特徴づける主要成分の一つとなる。ちなみにアミノ酸であるメチオニンシステインも含硫化合物でこれらも漬物臭の一つとなる。(メチオニンなんかは大根の漬物の匂いそのままだけどね)

発酵によって生成されるものの中では、カルボン酸とアルコールが香りをもたらす主要な化合物となる。自発的発酵を利用する場合、酸は乳酸菌が、アルコールは酵母が発酵宿主となると想定されるが、それぞれ生育や代謝の至適環境が異なる。また、酵母の中には好気条件においてテルペンを生成するものがある。テルペンもリモネンのような柑橘系の香りを特徴付ける化合物をはじめとする芳香性の高い化合物である。漬け込み条件によって生成される化合物の量が変化することから、漬物が持つ香りのバリエーションは複雑になる。

生成されたカルボン酸とアルコールが脱水縮合を起こすことでエステルが生成されるとさらに香りは複雑になる。エステルは一般に芳香を呈するものが多く、香りを特徴付ける主要成分である。酢酸エチルやサリチル酸メチル等が漬物から検出された報告があり、エステラーゼによる反応が起きていることが想定される。

多くの研究で漬物スターターとなる乳酸菌の検討が行われているが、さまざまな微生物の相互作用によって香り成分が生成されることを鑑みると、単一のスターターが優占するような条件で製造した場合、香りは良くも悪くも複雑さが減り、安定的な品質の漬物が製造できることが想定される。これを技術の進歩と見るか、安きに流れたと見るか。個人的には人類が蓄積してきた自発的発酵を利用する漬物製造技術を残していきたいと考えるが、どうだろうか。

 

以下はまとめを作るためのメモ

1. 野沢菜漬の漬物成分に関する論文。野沢菜漬の発酵乳酸菌はL. curvatusが優占種でL. plantarum、L. brevisはそれに続く、という結果。ただ、菌群集は漬け込み時間によって変化することが示唆されている。スターターカルチャーで漬物成分をコントロールできるだろう、という発想からの研究。L. plantarum2株とL. curvatus1株、L. brevis1株をスターターとして使ってその結果を見る、というもの。無菌野沢菜を使っているわけではない。L. curvatusが優占種なのであれば、L. curvatusを複数見た方がいいのかなと思うけども、単離されたL. curvatusがほぼ同質なものだったのかも。野沢菜漬は6%で荒漬して1.5%で本漬して作っている。低温で発酵。

揮発性成分としては、確かにスターターを使うと変わるけれども、だからと言って、「ではスターターの乳酸菌組成はこれで」という結論は導けなさそうな気がする。ブチルイソチオシアネート、4-ペンタニルイソチオシアネートあたりが共通のメジャーピーク(野沢菜由来だね)、アミノ酸エタノール、3-ブテニルシアニド、4-ペンテニルシアニドあたりが目立つピーク。ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、3-ヘキサノール、フェニエチルシアニド/イソチオシアネート、オクタン酸、ノナン酸あたりもよくみえて、スターターによって酢酸エチル、2,3-ブタンジエン、S-メチルチオ酢酸、アセトイン、ヘキサン酸の強弱が変わる。

香りの成分として注目しているのは含硫化合物。イソチオシアネートはアブラナ科の植物には入ってる。大根おろしが辛いのはアリルイソチオシアネートが原因。グリコシアネートがミロシナーゼという酵素でイソチオシアネートに変換されて生成される。含硫化合物は不快臭を呈するものが多く、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィドあたりはニンニク臭とも言われる。メチオニンシステインもそれなりに臭い。スターター乳酸菌を添加することで含硫化合物を減らすことができるのでは、という示唆。一方でスターターを入れない方がさまざまな微生物が働くことになるので、より複雑な香り構成になる。酢酸エチルはスターターなしでしか生成されないので、その辺りのジレンマみたい。

エピチオブチルシアニドが野沢菜のオフフレーバーで強い発酵臭の原因物質と言われている。これはスターターを添加しないサンプルから検出した、という報告があるけど、今回調製したサンプルからはスターターを添加したものよりも濃度が低かった。まあ、原料が無菌でない限り、スターターを添加するしないで変わるものではないような気はする。

 

2. 開花キャベツの発酵漬物、「アポ」というものがあるそうで、もともとは自発的発酵で作られているんだけれども、スターター乳酸菌を選んできましょう、という研究。漬物はスターターで作るのがいい、という方向性があるんだろうかね。スターターにはL. plantarum3株、L. sakei, L. mesetenroides, L. brevis, L. zymaeの7株。なんだかんだ言ってL. plantarumを試したがりだよね。漬物は8%の塩濃度で荒漬、3%で本漬。最大15日を25℃。

酸と塩の耐性という観点からL. plantarum LP165株を選抜。このサンプルについて詳細に調べていく。結局L. plantarumなのかもしれんね。

アルコール、ニトリル、カルボニル・エステル・酸・含硫化合物の6種類で分類して集計。漬け始めは含硫化合物のイソチオシアネート、チオシアネートが目立つ。原料由来成分。漬け込みが進むにつれてイソチオシアネートは分解されていく。アルコールやカルボン酸が増えていき、メチルパルミ酸、フェニエチル酢酸、酢酸などの芳香成分がでてくる。乳酸は揮発しにくいからGCではでてきにくいよね。個別の成分を見ていけば増減が分かりそうだけど、グループで見ていくと明確な傾向があるのは含硫化合物と酸だけかも。

結論としてはL. plantarum最高、ってことみたい。

 

3. 唐辛子の漬物を題材として、新しい塩水と熟成した塩水の違いと発酵容器の違いについて検討したもの。熟成、っていうのは使いまわしている塩水ってことなんだろうけど、こっちには微生物が大量に存在しているから発酵は早いだろうなということは最初から予想できるけども、どうだろうか。

芳香成分のうち、最も多かったのはエステル類。結構できるんだな。次がテルペン類。4-メチルペンチル2-酪酸メチル、4-メチルペンチル3-酪酸メチル、4-メチルペンチル4-吉草酸メチル、サリチル酸メチルあたりをよく検出。テルペン類としてはリモネン、オシメンをよく検出。原料由来ということもあるかもしれんが、メチル-4-吉草酸メチルはBacillus amyloliquefaciensが生成することが知られているので発酵してできてるのかもしれないね。3-メチルブチル-2-酪酸メチルはPichia属と正の相関を検出したので、酵母類とエステルは関係するかも。というかアルコール+カルボン酸でエステルになるので、アルコールを作る微生物がいないと、っていうことだよね。テルペン類はMetschnikowia pulcherrima (酵母なんだそうだ)との高い正の相関があり、これが関係していそう。熟成塩水ではアルカンがよく検出された。アルコール、酸、ケトン類は乳酸菌が関係していそう。乳酸菌と酵母が香り成分にかなり影響を与えているだろう、ということ。酵母の中には好気条件でテルペンを作るものがいること、好気条件でも酵母はアルコールを作りうること、乳酸菌は酸素に対する耐性がまちまちで酸生成能も種によって違うことなどが関連して香り成分を作っていると考えられるな。ふむふむなるほど。