論文レビューメモ

オープンアクセスの論文を一つのテーマに沿って3本ピックアップし、まとめています。2024年は生成AIを論文の執筆や解釈、まとめにどう使えるかを試していきます。

ヒトの腸内細菌叢と健康と疾患(2)

先週読みきれなかった論文2と3を今週読んで、3本をまとめます。

先週読みきれなかった論文2と3はこちら

2. Kouidhi S et al., Gut microbiota, an emergent target to shape the efficiency of cancer therapy.

www.explorationpub.com

 

3. Watson AR et al., Metabolic independence drives gut microbial colonization and resilience in health and disease.

genomebiology.biomedcentral.com

 

先週と今週で読んだ論文3本分をまとめます。

腸内環境がヒトの健康に関係しているというのは今に始まった議論ではなく、古代ギリシャヒポクラテスも「全ての病は腸から始まる」と考えていたくらい、かなり古い視点。研究が進むにつれて、脳腸相関、腸肝相関等の仮説も提唱されるようになっている。具体的に何かどのように影響を与えているか、という点についてはまだまだわからない点が多い。それは腸内環境と健康の関係性が単純ではないことが原因であろう。

以前から腸内細菌が作る短鎖脂肪酸については、その健康への重要性が指摘されてきている。ただし、そのメカニズムはまだわからないことが多い。少なくとも言えることは、短鎖脂肪酸を作る微生物は加齢によって徐々に減少するので、きっとこれは良くないことなんだろう、ということくらいか。むしろ加齢によって短鎖脂肪酸は不要になる、という考え方もできなくないが、今後の研究に判断を委ねるところである。

特定の腸内細菌が細胞のがん化に寄与しているとの報告があり、腸内環境とガンの因果関係について一端が示唆されるようになっている。腸内環境とガン治療についても、近年新たな研究の動きが出てきている。腸内環境によって免疫が調整されることが示唆されるようになってきてから、ガン治療の最適化に腸内細菌叢の改変が効果的ではないか、と考えられるようになってきている。

腸内細菌の改変によって治療が行われている唯一の疾患に潰瘍性大腸炎がある。健康なヒトの糞便を移植する糞便移植が最後の治療の選択肢として行われている。健康なヒトの腸内細菌叢を潰瘍性大腸炎患者に再構築することで炎症を抑えることができることがある、というくらいの感じで、リスクも高いため、積極的な選択肢にはなりきれていないのが現状。ただ、さまざまな努力によって治療法として確立しようとする動きは引き続き行われている。潰瘍性大腸炎の患者では腸内細菌叢の多様性が低くなることが知られていて、特定の微生物しか存在しなくなるが、その原因として、潰瘍性大腸炎の患者の腸管内では微生物同士で代謝物を利用し合うことが起こりにくくなっていることが示唆された。そのため、栄養要求性のない微生物のみが生き延びていくことになり、多様性が低下することが推測されている。そのため、栄養要求性のない微生物のみで構築した健康なヒトの腸内細菌叢、というものがあれば、より効果的な治療になる可能性が考えられる。

全世界で多くの研究者が同じテーマについて取り組んでいる非常に関心度の高い研究領域ではあるが、それでもまだまだ知見が不足しているということは、極めてメカニズムが複雑であり、関連する因子が多様なのだろうと推測される。もうしばらくは、都市伝説のような扱いを甘受しないといけない期間が続くのかもしれない。

 

以下はまとめを作るためのメモ

2. 腸内環境とがんのレビュー。膨大だな。

腸内環境とがん治療の関係性については以前から指摘されている。がんの種類やがんんのステージによってその関係性は異なっていて、腸内細菌がいた方が治療効果が高いケースといない方が効果が高いケースがあって、単純な因果関係ではないことがわかっている。ふむふむ。腸内細菌が抗がん治療の効果を打ち消したり、毒性を強めたりしているのでは、という仮説が提唱されているんだそうだ。化学療法や免疫チェックポイント阻害剤が効かないことと腸内細菌叢の変化が関係していそう、との報告あり。なので、腸内細菌を調整して治療効果を高める取り組みってのが出てきている。腸内環境から影響を受けるのは脳、肝臓、膵臓。腸管内に1 mLあたり10兆から100兆の微生物がいて、1.5 kgになる。嫌気環境かと思っていたけど、真菌やウイルス、古細菌なんかも腸内環境の維持に影響を与えている示唆がある。特にファージなんかは影響ありそうだけど、データ不足でよくわかっていないんだそうだ。腸内環境がととのっていることをeubiosis(ユーバイオシス)というんだそうだ。腸管バリアを整えたり、ビタミンや短鎖脂肪酸、二次胆汁酸を供給したり、感染から守る、というのが腸内細菌叢の役割として知られている。免疫システムに情報を伝達したり、免疫細胞の成熟や機能の発達を促すことも示唆されている。

ヒポクラテスが「全ての病気は腸から始まる」といってた。腸内環境の乱れはさまざまな疾患と関係があるとされ、肥満や糖尿病、潰瘍性大腸炎、ガンについて報告されている。

腸内細菌叢とガンの関連について最もよく研究されているのは大腸ガン。少なくとも腸内細菌叢の多様性が下がることと大腸がんとの間に関連がありそうだけど、因果関係についてはまだわかっていない。因果関係というよりも、相互に影響を与えている可能性もある。E. coliとFusabacterium属の微生物が直接大腸がんと関連していそう、という報告がある。がんのステージが上がるとこれらの微生物の存在比が高くなる。リンパ節への転移のリスクとFusabacterium nucleatumとの大幅な存在がリンクしている、との報告あり。大腸がん以外にも直腸、胃、食道、膵臓、乳、肺、胆のうガンと腸内環境の乱れが関係しているとの報告ある。ガン患者で特定の微生物の存在比が低下する、という現象が観察されているとのこと。

腸内環境の乱れがどうガンの進行と関連するか、については大腸がんのケースで見ていく。腸内環境の乱れが炎症反応を誘発し、腸管上皮細胞を変化させガン化に繋がる、という仮説。DNA損傷を誘発する毒性物質(シクロモジュリン)を細菌が作り出す。DNAを不安定化させて変異が入りやすいようになる。活性酸素を作り出す微生物もDNA損傷を誘発すると考えられる。基本的には細胞の恒常性維持を阻害する物質を腸内微生物が作り出し、DNA損傷を与えたり、代謝を調節して炎症が起きてしまったりする、というのが今のところの仮説のようです。

がん細胞を取り巻く微小環境 (TME)という考え方があって、ここの微生物がガン細胞の生長を助けている、という報告がある。

ちょっと驚くのは、腸内細菌が腸管バリアを破って体内に侵入し、肝臓や膵臓、乳房等に到達することができる、という報告があるそうで、ガン細胞の生長を助ける細菌もがん細胞の転移とともに一緒に移動するそうだ。ほんとかね。仮説か?

腸内細菌に誘導されるT細胞活性化が新しい抗がん免疫治療の方法として研究されている。Th17が活性化されることでシクロフォスファミド(抗がん剤)の効果を高めるんだそう。腸内細菌が化学療法薬剤を代謝(分解)することで副作用がでたり、逆に代謝することで効果が出る、ということもあるような記述だけど、ちょっとよくわからない。

腸内環境によって免疫が調整されるので、免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせで治療を最適化するという取り組みはすでに行われている。IL-12がターゲットになってもいるので、この辺は新規ではないのね。

抗がん治療は患者によって合う合わないのばらつきがあって、その辺が抗がん治療を難しくさせている。なので、その人に合った抗がん治療がもっと簡単に特定できるとよいよいよな、というのが医療の流れみたい。プロバイオティクスとかプレバイオティクスなんかも抗がん治療と組み合わせるのがいいのかなという示唆。あとは糞便移植、という方法も提示されていて、腸内環境をより抗がん治療に合うものに改変していくことが今後の流れになるのかも?という内容。情報量多いな。

 

3. 潰瘍性大腸炎の患者で優勢になる微生物群集が健康なヒトの腸内では極々マイナーなのはなんでかな?というところから始まった研究。

健康なヒトの糞便を潰瘍性大腸炎患者に移植して、それがどう変わるかを見たもの。健康なヒトの糞便はバクテロイデスとファーミキューテスが優勢。潰瘍性大腸炎患者の糞便はプロテオバクテリアが優勢。移植後はバクテロイデス、ファーミキューテス、アクチノバクテリアあたりが優勢に変化。優勢になった微生物ってどんなやつかな、と調べてみると、独立栄養性の度合いが高いものが優勢になったと判断される結果。健康なヒトの腸内で生育する微生物は独立栄養性の度合いはあまり関係ないが、潰瘍性大腸炎患者の腸内で生育する微生物は独立栄養性の度合いが高いものだった、というところから腸内細菌同士で代謝産物を分け合ったり、利用し合うということが起こりにくくなっているのではないか、という考察。潰瘍性大腸炎のようなストレスがかかっている環境では微生物同士の関係性がうまく機能せず、微生物群集の多様性が低下してしまうのではないか、というまとめ。何が起きているんだろうね。